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札幌高等裁判所 昭和62年(ラ)27号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

二当裁判所の判断

1  本件リース契約書の契約条項一五条(管轄裁判所)には、「甲(相手方甲らを指す。)・乙(抗告人を指す。)および連帯保証人(相手方乙らを指す。)は、このリース契約についてのすべての紛争は札幌地方裁判所を管轄裁判所とすることに合意します。」との文言が印刷されているが、この文言だけからは必ずしも競合する他の法定管轄裁判所を排除する趣旨が明示されているとはいえない。しかし、競合する法定管轄裁判所のうちの一つを特定して管轄裁判所とすることを合意した契約条項は、他の裁判所の管轄を排除する趣旨が明示されていなくても、特別の事情がない限り、専属的に管轄裁判所を定めたものと解するのが相当であるところ、一件記録によれば、本件訴訟(札幌地方裁判所昭和六一年(ワ)第二六六〇号損害賠償等請求事件)は、札幌に本店を有する抗告人(原告)が大阪府、兵庫県内に本店ないし住所を有する相手方らを被告として提起したものであり、その請求の要旨は、機械等のリースを業とする抗告人がコンピューター機器の販売等を業とする相手方甲らとの間で、それぞれ相手方乙らの連帯保証の下に、ミロク経理から買い受けたコンピューター等のリース契約を結んだところ、相手方甲らがリース料の支払を怠つたとして右契約を解除し、リース料残額相当の損害金の支払を求めるものであること及び本件リース契約に係るリース料は、JCB経由の口座振替による抗告人あて持参払(送金払)の約定であつたことが認められる。そうすると、義務履行地の裁判所として札幌地方裁判所が法定管轄を有する裁判所の一つであることは明らかであるから、特別の事情の存在が認められない本件において、前記契約条項は札幌地方裁判所に専属的な管轄を定めたものと解すべきである。ただし、相手方乙一、同乙三、同乙四、同乙五、同乙六、同乙八、同乙九及び同乙一〇の八名は、本件リース契約について連帯保証したことを否認しているところ、右相手方乙らが本件リース契約書に連帯保証人として署名したことについても、また、右相手方乙ら名下の印影が同人らの印章によつて顕出されたものであることについても、これを認めるに足りる資料はなく、本件リース契約書のうち右相手方乙らに関する部分が真正に成立したことを推定することはできないから、右相手方乙らについては、現段階において管轄の合意があつたことを認めることはできない。

2  ところで、たとい専属的管轄の合意がある場合であつても、訴訟の著しい遅滞を避けるという公益上の要請があるときは、受訴裁判所は、民訴法三一条により当該訴訟を他の法定管轄裁判所に移送することが許されるものと解するのが相当であるから、前記1の相手方乙ら八名を含む相手方ら全員について訴訟の著しい遅滞を避けるために本件訴訟を大阪地方裁判所(なお、大阪地方裁判所が本件訴訟について法定管轄を有することは、原決定が説示するとおりである。)に移送する必要があるか否かを検討することとする。

一件記録によれば、本件訴訟の現段階では、いまだ当事者双方の主張が十分尽くされていないけれども、抗告人の本訴請求に対し、前記1の相手方乙ら八名は、本件リース契約について連帯保証したことを否認しているし、右相手方乙らを含む相手方ら全員は、相手方甲ら(ただし、相手方甲一一を除く。)がリース物件の引渡しを受けていないこと、あるいは相手方甲一一がリース物件を利用するために必要な技術指導、ソフトの完成等をミロク経理から受けられないことを理由に、信義則違反あるいはミロク経理との共謀による抗告人の不法行為等を主張してリース料残額相当の損害金の支払を拒絶しており、本件訴訟の主な争点としては、本件リース契約が締結された事情(その際ミロク経理が果たした役割)及びその内容、リース物件引渡しの有無、抗告人とミロク経理との業務提携の態様及びその程度(抗告人がリース物件の売主であるミロク経理と実質上同一視し得る立場にあるか否か)などが一応考えられること並びに本件訴訟では、いまだ当事者双方とも証拠の申出をしていないけれども、証人としては、抗告人は、リース契約全般について札幌に居住する抗告人の社員三名、JCB経由の口座振替による持参払について札幌に居住する抗告人の社員一名、本店と支店の役割について香港(ただし、昭和六二年七月から札幌に転住する予定)、札幌及び東京都に居住する抗告人の社員三名(ただし、昭和六二年七月から抗告人の本店に転籍する予定の者一名を含む。)を予定し、相手方らは、本件リース契約が締結された事情について三重県、京都府、兵庫県、大阪府、香川県及び名古屋に居住するミロク経理の元社員七名を予定していることが認められ、この外、相手方らが本人尋問を申請することも当然予想されるところである。

以上のような事情の下で本件訴訟を札幌地方裁判所で審理するときは、その人証の全部を取り調べることが必要になるとは限らないにしても、抗告人が証人として申請する予定の者がいずれも抗告人の社員であつて、その出頭を確保することが容易であるのに対し、相手方らが証人として申請する予定の者は、関西を中心とする数か所の遠隔地に居住するミロク経理(破産会社)の元社員であつて、その出頭を確保することが著しく困難であることが当然予想され、それに加えて相手方らを本人として尋問することになると、遠隔地に居住する人証の取調べの円滑な進行に支障を来す結果、本件訴訟の審理を著しく遅延させるおそれが大である。もつとも、遠隔地に居住する人証を出張尋問や嘱託尋問によつて取り調べることも一応可能であるが、そのために要する手数、費用、所要時間などを考えると、本件訴訟の場合には、受訴裁判所ないし嘱託を受けた裁判所が被る負担の増加を軽視することはできないし、嘱託尋問については心証の形成に支障を来すおそれも生ずる。特に、抗告人は、現在、東京地方及び名古屋地方を始めとして、広く東北・大阪・広島・福岡・高松地方など全国各地に住所を有する数百名の者を被告として、リース数料残額相当の損害金の支払を求める本件と同種の訴訟を札幌地方裁判所に提起しており、その事件数は約一〇〇件に及ぶことが当裁判所に顕著であるが、このような札幌地方裁判所の現状では、一般的に見ても、これらの訴訟を出張尋問や嘱託尋問を実施して審理することも困難であつて、抗告人の都合を重視することは難しいと思われる。これに対し、原審裁判所が決定したように本件訴訟を相手方らの希望する大阪地方裁判所に移送するならば、札幌地方裁判所で審理する場合に比べて人証の取調べが容易になるので、訴訟の迅速な進行及び処理に役立つことが明らかであり、大阪地方裁判所で審理することによつて被る抗告人の不利益ないし損害は、大阪府、兵庫県にまで進出して活発な営業活動を行つた抗告人において甘受する外ないと言わざるを得ない。

3  よつて、本件訴訟を大阪地方裁判所に移送した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないので棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官舟本信光 裁判官安達敬 裁判官長濱忠次)

別紙 抗告の趣旨

原決定を取り消す。

相手方らの移送の申立てを却下する。

抗告の理由

一 原決定は、本件合意管轄を一応認めた上、「法定管轄を排除する趣旨であることが明白である等特段の事情を認めるに足りないから競合的合意管轄を定めたものと解するのが相当である。」と判示する。

しかし、本件管轄の合意は、次の理由から専属的合意管轄を定めたものと解するのが相当である。

1 本件リース契約書の契約条項一五条には、「(管轄裁判所)甲(相手方甲ら)・乙(抗告人)および連帯保証人(相手方乙ら)は、このリース契約についてのすべての紛争は札幌地方裁判所を管轄裁判所とすることに合意します。」と記載されている。

2 しかも、本件管轄の合意条項を含むリース契約条項は、わずか一六か条であり、A5型版の申込用紙の裏面に見出しを付して、読みやすい大きさの活字で、一見明白に印刷されている。また、「リースご利用の手続きとしくみ」の表面には、「ESCO SIMPLE LEASE(エスコシンプルリース)」と記載され、このリースが簡易な種類のものであることが告知されている。

3 ところで、本件リース契約は、コンピューター機器の販売等をする株式会社ないし商人である相手らが株式会社ミロク経理(以下「ミロク経理」という。)から小型コンピューターを買い受けるに際し信用供与の手段として抗告人との間で締結されたもので、商行為に基づくものである。

4 本件リース契約について当事者間に争訟が始まつた場合、その法定管轄としては、民訴法二条、四条、五条、九条の管轄の適用が考えられるが、本件リース契約においては、同法四条、五条に基づく抗告人の主たる事務所の所在地を管轄する札幌地方裁判所をもつて専属的管轄裁判所とすることに合意したものである。

5 けだし、当事者の意識としても、抗告人は、債権の管理・回収業務を一括して札幌の本店で処理していることから札幌地方裁判所を管轄裁判所とすることに合意したし、相手方らも、与信先が遠隔地でも毎月リース料を支払えばよいことから札幌地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とすることに異存はなかつたと推測される。

もつとも、仮に相手方らが右管轄の合意に異議を唱えたとしても、何ら意味がなかつたことも考慮すべきである。何となれば、相手方らがリース料を支払わなかつた場合、抗告人は、本件リース契約の義務履行地の裁判所である札幌地方裁判所に訴えを提起するはずであり、専属的合意管轄を定めた場合と同じ結果になることが予測されていたからである。しかも、リースが信用供与の手段として広く一般に利用され、どのような内容のものであるかは取引界の常識として十分理解されていたし、リース会社の債務は、リース物件の引渡しによりほとんど終了しているのに対し、ユーザーのリース料支払債務は、あたかも金銭消費貸借における毎月の元利分割金返済債務のように理解されていたからである。

二 損害又は遅滞を避けるための移送について

1 原決定は、「本件リース契約はいずれもリース物件の売主である株式会社ミロク経理大阪支社ないし被告らの住所地で結ばれていること」と認定する。

しかし、抗告人は、ミロク経理に本件リース契約の締結権を授与していないし、第三者に右権限を授与する旨の告知もしていない。本件リース契約は、札幌に本店を有する抗告人と大阪を中心とする関西各地に本店、営業所、住所を有する相手方らとの間の契約であり、相手方らとの商談取引の中で、小型コンピューターを売ろうとするミロク経理が信用供与の手段としてリースを導入しようという選択になり、札幌に本店を有する抗告人を紹介、あつせんしてリースを媒介したものにすぎない。本件リース契約書には、ミロク経理を「売主(契約取次店)」と明記している。そこで、ミロク経理は、リース申込書に関する一連の書類をユーザーである相手方らから受領して抗告人方に送付し、抗告人は、これらの書類を審査した上、直ちに「お引受け通知書(請求書)」を相手方らに発信している。本件リース契約は、隔地者間の契約として、この発信された日をもつて成立したものであり、ミロク経理大阪支社ないし相手方らの住所地で結ばれたものではない。

2 原決定は、「本件訴訟の争点になると思われる本件リース契約の成立と内容に関する関係証人のほとんどが大阪府、兵庫県内に居住していることを認めることができる。」と認定する。

しかし、本件リース契約の成立と内容に関する抗告人側の証人のほとんどは札幌市に居住しており、大阪府、兵庫県に限らない。また、相手方らの関係証人がミロク経理の元従業員を指すのであれば、本件リース契約の媒介に関する証人であつて、その成立や内容に関する証人とはいえないし、何らの関連もない。

さらに、ミロク経理は、昭和六一年九月五日に破産宣告を受けたが、同社の従業員は現在どこにいるのか、その住所も定かでない。仮にそれが判明したとしても、出頭を確保できる証人は恐らくごく少数に限られ、この点は、大阪地方裁判所で審理しても、あるいは札幌地方裁判所で審理しても同じことであろう。いずれにしても、本件訴訟では、証人の数、氏名、住所、立証趣旨等について相手方らから何ら具体的な資料が提出されておらず、全く不明である。

3 原決定は、「これら関係証人、被告らの裁判所への出頭のために要する時間、費用を考えると札幌地方裁判所において本件訴訟を審理するとなるとかなりの費用を要することが予想され、被告らのおよそ半数が居住し、被告らの希望する大阪地方裁判所で審理する方がはるかに便宜であるということができる。」と判示する。

右判示の前半部分は、当然のことであるが、リース料支払債務不履行の相手方らが防御権を行使しようとするのであるから、当然の負担といえるのではなかろうか。

また、右判示の後半部分は、「遅滞を避けるための公益上の必要がある場合」として判示しているのであろうか。抗告人が本件訴訟で相手方らについて共同被告形式を採用したのは、訴訟前における抗告人との交渉の窓口が相手方らの依頼した堀正視弁護士であつたからであり、相手方らを共同被告にした方が堀弁護士についてはもちろん、相手方らのために便宜であることを考慮したものである。それなのに、単に相手方らが大阪に半数居住していることだけをもつて、大阪地方裁判所で審理する方がはるかに便宜であると判示するのは理由不備である。本件訴訟は、通常共同訴訟であるから、抗告人は、大阪地方裁判所で審理するにしても相手方らの数だけの立証準備をしなければならないが、この点は公平の観点からどのように理由づけるのであろうか。

4 原決定は、「原告は(中略)支店を北海道内六か所のほか東京、大阪に置いていることが一件記録上認められるから、原告が大阪地方裁判所へ出頭することはさほどの難事とは考えられず、大阪地方裁判所で審理することによつて被る原告の損害は本件訴訟を札幌地方裁判所において審理する場合に被告(ら)の被るべき損害に比して軽微のものということができる。」と判示する。

しかし、抗告人の組織上、債権の管理・回収部門はすべて札幌の本店に集中しており、大阪支店は、単に営業だけを担当しているにすぎない。大阪地方裁判所で審理されることになると、抗告人代理人の出張旅費、日当についてはもちろん、抗告人の本店管理部社員が大阪に出張することになるので、その旅費、日当も要することになる。抗告人の受ける損害は、相手方らの債務不履行に基づく本件損害賠償債権の未回収分に加えて更に膨大な額に及ぶものである。

三 以上のとおり、原決定には重大な事実誤認及び理由不備の違法があるので、抗告の趣旨記載の裁判を求める。

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